動物病院を訪れたとき、白衣を着た複数のスタッフが働いている光景を目にしますよね。そこで活躍しているのが獣医と動物看護師です。同じ空間で働いていても仕事内容や給与、必要な資格には大きな違いがあります。
今回は獣医の年収をメインに、動物看護師との業務内容や待遇の違い、それぞれの職業に就くための道のりについて詳しく見ていきましょう。
獣医の年収はどれくらい?
厚生労働省の令和6年度賃金構造基本統計調査によると、獣医の平均年収は約885万円となっています。平均年齢は46.7歳、勤続年数は12.2年という結果でした。月額給与は約71万円、年間賞与は約29万円という内訳です。
ただし、この数字はあくまで平均値。実際の獣医の年収は勤務先や経験年数によって大きく変動します。駆け出しの動物病院勤務医の場合、年収300万円台からスタートすることも珍しくありません。一方で、開業して成功している獣医や大企業で働く獣医の中には、年収1,000万円を超える人もいます。
初任給に関しては、動物病院で働く場合23万円から25万円程度が相場です。国家資格が必要な専門職としては、決して高いとは言えない水準かもしれませんね。
勤務先によって年収は大きく変わる
獣医の収入は、どこで働くかによって驚くほど差が出ます。
動物病院で働く獣医
臨床獣医として動物病院に勤める場合、年収は約300万円から350万円程度でスタートします。給料に換算すると月21万円から25万円ほど。若手獣医が経験を積むために選ぶケースが多く、その分平均年収は低めになる傾向があります。
しかし、規模の大きな病院で院長クラスになれば、月収35万円以上を得ることも可能です。技術と経験を重ねることで、着実に収入アップを目指せる環境といえるでしょう。
公務員として働く獣医
国や地方自治体、動物園などで公務員として働く獣医の年収は、約400万円から450万円が目安です。動物病院の勤務医と比べると若干高めの設定になっています。
公務員獣医の最大の魅力は、安定性と働きやすさにあります。定時で帰りやすく、休暇制度や福利厚生が充実しているため、ワークライフバランスを重視する人に向いています。産休や育休の取得実績もあり、長く働き続けやすい環境が整っています。
JRA(日本中央競馬会)の獣医
競走馬を診る獣医として、JRAは獣医師にとって憧れの就職先の一つです。
JRAの獣医職には臨床獣医職と研究職があり、2024年の実績では初任給が約27万円からスタート。その後キャリアを積めば、平均年収は約650万円から1,200万円という高水準に達します。
ただし、毎年の採用人数はわずか5名から6名程度。経営が安定していて待遇も良いため、獣医学部生の間では非常に人気が高く、就職難易度もかなり高めです。
民間企業で働く獣医
製薬会社、食品会社、飼料関連企業などで専門職や研究職として働く獣医の年収は、約600万円から800万円です。
企業規模によって差はありますが、一般的に動物病院よりも高い給与水準が期待できます。大企業であれば、ボーナスや福利厚生も手厚く、安定した環境で専門性を活かせるのが魅力ですね。
動物看護師との業務内容の違い
同じ動物病院で働いていても、獣医と動物看護師の役割は明確に分かれています。
獣医の主な業務
獣医は「医療の責任者」として、診断と治療の中心を担います。病気の診断を下し、治療方針を決定するのは獣医の役割です。手術の執刀、薬の処方、検査結果の解釈と説明なども獣医が行います。
飼い主に対しても、医学的な判断に基づいた説明をする責任があります。動物の命を預かる仕事だけに、高度な知識と判断力が求められる職業です。
動物看護師の主な業務
一方、動物看護師は「現場のサポーター」として、獣医の診療を支えます。検査の準備や補助、薬剤の準備、手術の準備と術後ケア、入院動物の観察と世話などが日常業務です。
診断を下す権限はありませんが、動物の状態を細かく観察し、変化を獣医に伝える重要な役割を果たしています。飼い主の不安に寄り添い、分かりやすく説明するコミュニケーション力も大切な仕事の一部です。
このように、獣医が医療判断を行い、動物看護師がその実施をサポートするという連携によって、動物医療は成り立っています。
給与面での違いは?
業務内容の違いは、そのまま給与の差にも表れています。
獣医の平均年収が約885万円であるのに対し、動物看護師の平均年収は約323万円です。実に2倍以上の開きがあります。
この差は、必要な資格や学習期間、そして現場での責任の重さの違いから生まれています。獣医は6年間の大学教育と国家試験合格が必須ですが、動物看護師は専門学校や短期大学での学びが一般的です。
ただし、動物看護師にも認定動物看護師などの資格制度があり、スキルアップによって待遇改善の道は開かれています。
獣医になるには?
獣医師として働くためには、かなり長い道のりを歩む必要があります。
まず、大学の獣医学部で6年間学ぶことが必須。その後、国家試験に合格して初めて獣医師免許を取得できます。卒業後は臨床現場で経験を積みながら、一人前の獣医師を目指していきます。
医師や歯科医師と同じく6年制の教育を受ける獣医師。しかし、医師の平均年収が約1,338万円、歯科医師が約1,136万円であることと比較すると、獣医の年収は低めといえます。同じ国家資格でありながら、この差があることに驚く人も多いでしょう。
年収を上げる方法は?
獣医として収入を増やしたいなら、いくつかの選択肢があります。
最も一般的なのは独立開業です。自分の動物病院を持ち、経営が軌道に乗れば年収1,000万円以上も夢ではありません。動物病院は自由診療のため、診療費を自分で設定できるのも開業の魅力です。
ただし、動物病院の数は年々増加している一方で、ペットの飼育頭数は減少傾向にあります。特に犬の飼育数は減っており、競争が激しくなっている現状も理解しておく必要があります。
開業以外では、大手製薬会社などの民間企業への就職や、JRAのような待遇の良い特殊法人への就職も、高収入を得る道として考えられます。
まとめ
獣医の年収は平均で約885万円ですが、勤務先や経験によって大きく変動します。動物病院勤務では年収300万円台からスタートし、JRAや大企業では1,000万円を超えることもあるのです。
動物看護師との違いは、業務内容と責任の重さにあります。獣医は診断と治療の責任者、動物看護師は現場のサポーターという役割分担です。当然、給与面でも大きな差が生まれています。
獣医になるには6年間の大学教育と国家試験合格が必要で、道のりは決して楽ではありません。しかし、動物の命を救い、飼い主の笑顔を取り戻すやりがいは、何物にも代えがたいものがあります。長時間労働など厳しい面もありますが、動物への愛情と情熱があれば、充実したキャリアを築けるはずです。
